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長生きの国を行く | ||
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01世界の長生き地帯
寒さ、日光不足を克服
ほかの国が七十才前後であるのに、この北の国で七十二、三才にまで寿命が延びているということは、興味ふかいことである。そういう長い寿命をもっているのは、雪雲に覆われているのが、かえって健康によいのじゃないかと考える人もあろう。つまり、常夏の国などでは、いつも仂けるので、年中仂きつづけるのだが、寒い国の人は、冬は仕事ができず、それがレクリエーションになるのではないか、というわけである。たしかにそういうこともあるであらう。しかしそれだけではあのような健康と長生きとはでき
るものではない。なぜか、ということは後で述べるが、要するに悪い生活環境とたたかい、健康のための工夫をしているからである。
たとえば家を住みよくすることである。それにはまず家の温度を調節するだけでなく、部屋の中に植木の鉢をおいたり花をかざったりして、気持ちを和やかにしている。これはいま南極探険で問題になっているが、白一色の味気ない景色だけを眺めて話し相手もなく一人でいると、気持が滅入ってそれが体の不調をおこすのでいちばんいけない。それで、みんなで楽しむ共同の広場(ロビーやカフェー)が、できている。これは欧米の国々ではどこでもそうなっていて、日常生活になくてはならないものになっているが、この点、日本ではカフェーは、とくべつな場所になっていて、アパートなどにも、共同の広場がないのは困ったものでだ。
また欧米、ことに北欧では、訪問するときにはかならず花を持ってゆくことになっている。だから町では辻々のどこでも花を売っている。これは花を見るということが、心に慰安を与え、殺風景な冬を心地よくしてくれるからである。このことは、健康や長生きのために大切であることが、このごろ医学的にも証明されている(ストレス学説など)。
北欧は光の乏しい国なので、日光を大切にする。薄日の射すときは、公園や運動場に出て、誰もが日光にあたる。夏など老若男女、すっぱだかになって水泳したりボートをこいだり走りまわったりする。コペンハーゲンやオスロなどにはフィンゼン(一八六〇~一九〇四)の銅像が立っている。この人は自分自身が結核になり、腹膜炎までおこして苦しんだのだったが、―北欧には結核がひじょうに多いのは、日光不足のせいである。―日光さえあればと考えて、苦心の末、人工太陽燈を発明した。そうして皮膚結核その他日光不足でおこる病気を癒して、女字どおり人類に光をもたらした偉人である。
また、光の代りにビタミンを与えればよいことがわかってから、さっそくビタミンAやDを国民に与えたりしたのであった。そのようにいろいろ苦心して、今日の健康と長生きをかちえたのである。
北欧の国々では百年ほど前には、平均寿命はインド(三十七才)とあまりちがわず、その当時としてもむしろ短命のほうだった。そして、上に述べたように寒さと日光不足や栄養不良などによって、自然の悪条件と悪戦苦闘していたのだった。それが現在のように病気の少い、長生きの国になったというのは、その努力が報いられてきたのであって、今や世界の先頭に立って着々と寿命をのばしている。