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08世界の飲物行脚
イギリス人のお茶
外国人の生活には紅茶とコーヒーがつきもので、日本のお茶と同じことだが、イギリスではさかんに紅茶を飲む。自分の国では茶はできないので、セイロンやその他から輸入している。茶の木は日光の多い地方でできるもので、茶にはビタミンCをたくさん含んでいるものである。紅茶も日本の緑茶と同じ茶からつくるのだが、紅茶はビタミンCを含んでいない。それは製法がちがい、蒸して醗酵させてゆくうちにビタミンCが壊われてしまうのである。紅茶の中にはカフェインとティンとテオフィリンというものが入っている。
コーヒーにはカフェインが入っているのだが、どちらも心臓を刺激して、血液の循環を盛んにし腎臓を刺激して老廃物の排泄をうながして、疲労を回復するものとして知られている。
支那では昔からお茶を使っていて、日本へは栄西禅師という禅宗の坊さんが持って帰ったのである。眠けをさまし、疲労を癒やす薬としてお茶の飲み方について、いろいろ細かい注意が述べてある。『喫茶養生記』というのがそれで、つまり、お茶(おもに抹茶)は疲労を回復し、精神をしゃんとさせるものだが、やたらに飲むのはよくない、といっている。中国では気候が乾燥していたりするのでお茶をよく飲む。お客などにゆくと、飲むと、あとからあとからとついでくれる。また″たん茶″といって、茶をかためたものを削って飲む。これはビタミンCを補給するためである。とにかく茶はいろんな形で使われるのだが、欧米では紅茶としてもちいる。紅茶は緑茶と原料は同じだが、ただ蒸したもので、ビタミンCはなくなり、赤い色になっているのである。
飲み方は、お茶とちがってふつう、砂糖を入れたり、ミルクを入れたりして飲む。そして食事の時だけでなく、とくに″ティーの時間″というのがあって、日に何度も飲む。家庭でもそうだが、まず朝起きると床の申で飲むことになっている。これはモーニング・ティーというが、「あなたのモーニング・ティーは何時にしますか」と聞かれる。「十時にします」というとおどろいた顔をする。というのは、この″朝のお茶″というのは起きるということだからである。ふつう、朝、寝床の中で、つぎは十時に、そして午後の三時、と食事の時以外にも何回となく紅茶を飲むのである。
お茶は、コーヒーでもそうだが、各人の好みがあるとみえて「お茶をくれ」というと、必らず『濃いのか薄いのか』「ミルクを入れるか入れないか」と聞かれる。それから、砂糖もふつうはポットに入れておいてゆくが、「いるかいらないか」と聞かれることもある。向うでも通人がいて、ミルクはいらん、砂糖はいらん、という人もあるからである。ミルクにしても、多いか少いかとうるさいほどである。
また同じ紅茶でも、日本みたいに一杯ではなくて、ポッ卜に入れてきて二杯半くらいはある。それと同時に熱いお湯だけを持ってきて、とにかく自分の好きな濃さにして、それをゆっくり新聞を読んだり、話をしながら飲むのである。こんなわけで、イギリス人のお茶の消費はたいへん多く、平均して日本人の三倍くらいだといわれている。
これは、日本でも職人が十時と三時とにお茶の時間があって休むことになっているが、仕事をしていてもお茶の時間にはかならず手を休めて皆でお茶を飲む。アメリカでは、能率の上からそんなことはしていない。つまりレクリエーションの手段でもあるらしいのだが、イギリスではひじょうにたくさん紅茶を使っている。
このお茶も、緑茶としてもちいればビタミンCがあるので、イギリス人にとってはよいものなのだが、紅茶であるので腎臓を刺激して小便を出させるだけになっているようだ。紅茶にレモンを入れるのはビタミンCを追加するのでよいことだが、ビタミンを一度取り去ってまた加えるというのはもったいないことである。
スエズの動乱のとき、紅茶が足りなくなってイギリス人たちはちょっと困ったようだったが、ホテルにいたセイロン人は、今までイギリスから困らせられたが、いまこそ紅茶でもって仇をとってやるのだと笑っていた。それほど紅茶はイギリス人にとって離せないものになっていて、イギリスの紅茶は、日本の米みたいに、経済的にも大きな負担になっているようである。それと同時に、健康的にも(それに白砂糖を使うので)マイナスになっていると考えられる。このごろお茶の回数を減らそうということがいわれだしている。