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10新しい医学の結論
幸福のための医学
機械や道具は、もともと人間の″手助け″をするために造られたものであるのが、遂に人間の職を奪うというならば、それは根本的に間違っているにちがいない。スターリンは死ぬ前に、「一日の労仂時間は短縮へ向って進むべきである。そして各人は完全な教育をうけるに必要な暇を持つようにしなければならない」といっている。この人間教養のための暇を持つためにこそ、機械はもちいられねばならないのは、当然のことであろう。
これは、科学・技術はもちろんあらゆる人間の営みは同様であって、人間の幸福のために向けらるべきである。とりわけ医学は、病を医やし、生命を救うことを本来の使命とするものである。ところが、これまでの医学は、部分的な病原体や病的変化に日をうばわれて、ともすれば、全体としての″人間の生命″を見忘れていた。そして″手術は完ぺきだったが、患者は死んだ″というような、本末てんとうの場合も少くはなかった。
これは、医学の基礎である生理学も、おもに、心臓・肝臓・腎臓といった個々の臓器を別々に細かくしらべる行き方がおこなわれていた。それに従って、臨床医学では、心臓の病気、肝臓の病気などと、臓器別の病名がつけられ、また薬品も、心臓の薬、肝臓の薬などというものがあるのである。
ところが、戦後になって、神経やホルモンの研究が進むにつれて、各臓器の仂き合い、さらには、体と心との仂き合いが、はっきりと明らかになり、ここに心と体の″一まとまり″になった人間の生命が、やっと取り上げられるようになりてきた。このようにして、これまでの個々の臓器について知られたことは、大きく生命の問題に綜合統一されつつあるのである。
こんなわけで、欧米の大学や病院では、もはや基礎と臨床との区別はなくなっている。また心の病と、体の病とは、″精神身体医学″として一まとめにして取扱われる傾向にある。さらに寿命を延長し、若さを保つための医学、つまり、真に人間の幸福のための医学が、深い霧の中から、ほのかな輪郭をあらわしはじめたのである。
すなわち、中年期の障害防止、老人病の克服、老化防止、生命の延長を目的とする″老人科″(ゼリアトリックス)および″老人学″(ゼロントロジイ)が、新しく医学界の中心課題となってきた。