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04恵み溢れる国々
″マニアーナ″という言葉
このように、放っておけば自然の恵みに浴して砂糖は出来て、ひとりでに金がふえるのだから、苦労したり気を使うことはない。こんなわけから、キューバは遊ぶことがさかんなのである。スペイン系の本領を発揮して、昼よりも夕方から活気が出るようだ。
首都ハバナ市は旅行者にとっては完全に夜の街だ。キャバレーで有名なのは「トロピカーナ」「モンマルトル」「サンスーシー」などであるが、ニューヨータやパリのキャバレーも比較にならない豪華さだ。とくに「トロピカーナ」は、高いヤシの木が入口の両側に並び、入ると大狸石の噴水がある。その周りには等身大の踊る女人像が、青、ピンク、黄金色の照明にてらし出されている。仰向いてみると青天井かと思ったのは大円蓋である。国際会議の招待会がそこであったが、飲み食い放題に歌や踊りの乱舞である。そのステージでのよびものは市長一家、夫妻と娘・息子の四人で、″新作″のチャッ・チャッ・チャッを歌い、マンボを踊るのであった。一時間もやってくれたが、そのうまいこと、まったく愉快になってしまう。重役階級はこれができなければ、社交界に入れぬというから、日本の小唄や長唄のたぐいであろうか。リズムの歌は大半はチャッ・チャッ・チャッで「ボンボン売ってるあの娘、かわいい娘、かわいいくちびる、チャッ・チャッ・チャ……」といった、およそ無意味なものばかり、これは男がうたう。女の歌は、何となく哀しい恋の歌ではなくて、卒直に泣いてうったえるのが多いという。これは女性の生活をそのまま歌っているのでもあろう。毎晩九時から十時まで行われるビンゴが一番よびもので、何百ドル、何千ドルという賞金がかけられる。それから食事、また踊りて歌って、夜中の二時まではつづく。
夜の生活がこうだから昼の生活は逆に低調である。重役階級ともなれば面会を申込んでも夕方の四時過ぎからでないと会えないのがふつうだ。この点ではスペイン系のラテン・アメリカでは、キューバが一番徹底している。
夕方五時頃に会いに行くと、心よく迎えてはくれるが、ちょっと話が面倒になるとすぐに″マニヤーナ″とくる。これは「明日一という意味だが、面倒なことは明日にまわして、今日は楽しみましょう、という歌である。「マニヤーナ、マニヤーナ、今夜は踊って楽しく過そう、チャッチャッチャ」。
強烈に照りつける太陽を浴びて、ヤシの木陰で風に吹かれて歌って踊っている。そこにいる人はみな楽しそうにみえる。大声で話し、高らかに笑い、無責任でほがらかである。