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09近代生活を快適に
姿を消した路面電車
近代生活は、交通のスピードアップと″音″と″光″とがますます多くなってゆくのだが、都会はまさに騒音と色彩の過剰になっている。これは耳にも目にも強い刺激を与え、これがもとになっていわゆる″現代病″といわれる心臓血管の病気―動脈硬化や心臓病、脳出血―や胃腸の潰瘍、その他関節リュウマチ、神経痛などが多くなるともいわれ、欧米の文化国では、都会の音や色・光の取締りをやっているところが多い。
中国米の国々は、地域も広く、人も割に少く、メキシコ市やハバナのように、人々も刺激を好むので、都会に音や色が氾濫しているところもあるが、日本のように電車の音や不必要な警笛の音をさせることは注意してひかえている。また色彩は、中南米ではどぎつい壁画などはあるが、広右の看板が乱立して町の美観をそこなうことのないように注意されているようである。看板やネオンがあっても、建物が大きいのと、町中に公園があったりしてゆったりしているせいか、そうせせっこましくは感じられない。むしろその明るい色を適当に配置させて、町り光景をひきしめている。古いローマの町のネオンや看板の色は、きのきいたアクセントをつけている。私たちが日本から行くと、町の美観を乱すまいと非常に注意しているんじゃないかという感じがする。外人が東京の町を見て、看板ばかりで家は見えない、といったそうだが、私も帰ってきたとき実際そう感じた。
自動車にしても相当のスピードで走っているのだが、これも道が広くて良く、車もよいせいかオートバイやオート三輪も音をたてない。軽快に、スムースに走っている。また警笛などはほとんど使っていない。それからヘッドライトにしても、むやみに明るく照らすということがない。これは道端から長いアームの街灯か出ていて、路面がくまなく照らされているからでもある。色彩といい、騒音といい、私たちの心を刺激し過ぎれば事放のもとになるので、ただ注意しろというだけでなく不必要な音や色や光はなるべく使わないようにすることが大切である。
欧米の都会でまず気のつくのは、路線を引いたガタガタ電車はほとんどなくなり、音のしない電車かトロリーあるいは乗合バスに切り変えられていることである。これは路線電車というものが、町の大きな騒音源であり、オートバイやオート三輪のエンジンの音とともに、もっとも町を不愉快にするものだからだそうだ。電車の騒音は秉っていても、心をいらだたせ体を疲れさせるもので、ケルン市の電車は路線だが形も美しいし、音もしないようになっていて、世界一だといって市民は誇っていた。また、ストックホルムの地下鉄は、最近できたばかりだが、乗り心地がよいのは一つには音がしないからである。
だから路線を電車が走ることは、道も狭くなるし騒音も立てるので、都会では主な交通機関は地下へもぐらせてある。たとえばニューヨークでも、パリでも、ロンドンでも、ベルリンでも、地下鉄がよく発達している。