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05自由にして楽しい男女関係
「あなた地下鉄、私はバスよ」パリ版
パリは、大っびらなところで男女関係も明朗だということは、皆さんもご存じだろう。たとえば映画などで、アルぺール・プレジャンなどがうまく描いている。『パリの屋根の下』、『パリ祭』などを見ても庶民的なこだわりのない生活が愉快にくりひろげられている。私がパリヘ着いたとき、まず目についたのはやはりそれであった。男女が何のこだわりもなく地下鉄の入口や、街灯の下や、町中の公衆の面前で、相擁して接吻している姿が見られるのである。地下鉄の入口などで接吻の最中にバスがやってくる、すると″おいちょっと待て″と言ってから、いそいでもう一つキッスをして、一人はバスヘ、一人は地下鉄の中へ消えて行く、というような情景が展開する。それが若い男女だけでなく、年配の男女までもが動き出す車の中から相手に投げキスをする。それが、パリの町並の中ではまったく自然のままに、あたりまえのことであるらしく見向きする人もない。
また、昼間にはセーヌ河のケイ(岸)や橋の上、夜には明るい街灯の下に何組もくっついたまま、いつまでも立ちつくしている。晴れた日など、公園のベンチに、芝生に、同じような光景が展開する。ことに、シテ・ユニべルシテール(パリの南にある「大学都市」)では、各国から来た男女学生が一組ずつ一台の自転車に乗ってきては、互にマクラになりながら語り合っている。
こんな風習は昔からあったらしく、ワシントンに残っている日本のさる大名の日記によると「男女相擁して接吻する。……道義の廃頼その極に達す……止んぬるかな」とある。道義がどうなのか知らないが、とにかく、この程度の男女関係はあたりまえのことらしく、第三者のわれわれがカメラをむけると、よろこんでくっつきあって、撮ってくれという。では特定の男女間でのことかと思うと、そうでもないらしい。一時間もほかを歩いてもどってくると、さっきとちがう男女が一対になって体をよりそって話している。
パリのことはこれまでも聞いていたが、このような″情景″は、ロンドンでもストックホルムでもベルリンでも見られる。してみるとこの″男女交際″の自由は、欧米では日常茶飯事になっているらしい。