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07食事を改善ずる欧米人
太りすぎるアメリカ人
近代生活がしだいに機械化され、組織化されて誰もが仂くということになってくるもので、食事というものが個人の趣味嗜好から離れて、とにかく健康で仂くための合理的な食事というところに趣味が押しつめられてきた。したがって、自分の嗜好というよりは、むしろ栄養ということが中心になって、ことにアメリカでは大きい都会になると、だいたい缶詰とか冷凍食品というものを買っておいて、なるべく時間や手数をかけないで、それを簡単に食べるというのが、普通の生活になってきた。アメリカはヨーロッパとはちがって、食糧があるのだが、そういう風に自分の趣味をきりつめて、合理的な栄養ということで、うまくバランスを考えて、食生活をしているわけである。
そういうわけだから、一日の栄養というものを頭に描いていないと、うっかりして、自分の食べたいことに委せておくと、栄養のバランスが片寄ってくることにもなる。それは食べるものの種類が少い、それから味にしてもどれもほとんど同じような味である。だから味をたよりにして自分の欲しいものを食べるというわけにゆかなくなった。
そのあらわれであろうか、ニューヨークあたりには、″自然食″がはやり、それを食べさせる食堂が何軒かある。なかなか繁昌していて、老人だけでなく若い男女たちも、そこで生の野菜をかじっている。また、日本でいえば精進料理のような肉を使わない食堂もある。とにかくカンヅメのカロリーやビタミン剤といった人為的な食事に対する反省もあって、自然食は大はやりである。これはまた、従来の栄養学の教えるところに従って、カロリーを摂っていると、どうしても太ってくる。そうして血圧が高くなったり、心臓病になったりする。だから健康であるためには、どうしても太らなくしなければならない、ということが大きな理由になってもいる。
アメリカでは心臓の障害が非常に多い。年に何百万という人が心臓病で倒れてゆく。それは心臓の冠状動脈の閉塞や心筋梗塞とよばれるもので、太りすぎるとかかる。また癌も多く、ことに肺癌、性器痛が多い。つまり伝染病は少くなってきたのだが、心臓や血管の病気がひじょうに増えてきた。これは日本でもそうで、ことに日本では脳溢血という形がいちばん多い。心臓病もだんだん多くなってきている。これはこのごろのような生活環境、つまり多忙で複雑な生活が精神的にも肉体的にも窮屈になって、ストレスをおこすことも原因であろうけれど、食べ物の摂り過ぎ、ことに脂肪や蛋白質などが多すぎることが、血管や心臓の病気の原因であるということがわかってきた。
そういうわけで、アメリカ人は長生きしようと思ったら、とにかく太ることがいちばんの大敵であるというので、なるべく食べすぎをしないようにしている。ホテルや地下鉄の駅など″ヘルスメーター″というのがある。これは体重計で、それには身長に対する標準体重が示してあって体重が標準をオーバーすると危険信号だというので、太りすぎることを監視ずるのである。ところが日本では、体重を測ったとしても、体重がふえるのは健康だと考えていて、少しでも体重が減ると心配する傾向がある。これは間違いで、太っているからとて四十すぎた人では、体の皮下と同様に動脈にも脂肪がついて動脈硬化を起して、そして、脳出血や心臓病をおこして死んでしまうことが多いのである。とにかく肥りすぎないことが、アメリカでもどこでも文明国では現代病を避けるもっともよい目安になるのである。
そんなわけで、向うではCMCという薬があるが、これはつまり吸取紙の錠剤のようなもので、胃液を吸収して食欲をおさえ、腹の虫をおさえるのである。