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長生きの国を行く | ||
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01世界の長生き地帯
長寿の最大要件は社会保障
長生きをもっと積極的に押しすすめることは、ただ健康に気をつけるだけでは達せられない。長生きするには、老後の不安をのぞくということがもっとも大切であることかわかってきた。それで今日では「社会保障」―養老年金や失業保険など―が先進国ではおこなわれている。スエーデンではすでに一九二〇年から失業保険や養老年金がはじめられた。それが戦後になって、北欧の国々でも、イギリスでもアメリカでもカチダでも行われるようになったが、この社会保障を徹底的にやり、ほぼ完全の域に達しているのはスエーデンである。
三十年前に、世界に先だって、社会保障をおこない、それをどんどん進めていったのである。今では、立派な老人ホームや子どもの家が、いくつも建っている。六十七才からは養老年金がもらえる。五十五才から寡婦は年金がもらえる。病人やケガ人は、保険で治してもらえる。……この世の天国である。
しかし、このかげには、平均所得七万円に対して三〇パーセントの税がかかっている。また商品の売上げには約五パーセントが、この社会の福祉にあてられる。たいへんな重税である。しかし、仂けるときに仂いておけば、だれもが年とってからの心配はない、というのだから、よろこんで仂いて、よろこんで税金を払うのである。
こういう意味で、人間の寿命というものは、健康生活や社会制度や政治経済など、すべての総決算であるわけであるが、それを得るためには、人智を仂かし、頭を使って努力しなければならないのである。これを北欧の国々、とくにスエーデンがそれを示しているわけである。
こんなわけで、私はスエーデンをよく見てきたのだが、オランダにしろ、ドイツにしろ、イギリスにしろ、フランスにしろ、ヨーロッパの文明国といわれる国の大部分は、自然環境の悪いことろにありながら健康で幸福な生活を送っている。ヨーロッパの生活は、私たちに教えるところが多いのである。このことから考えてみても、ハンチントンの『気候と文明』という書物に、気候条件の悪い、颱風の吹く道すじに古来、世界の文化が起こったといっているが、これも、悪条件を克服するために人智が進歩し、これが文化をつくるのだと考えられるのももっともである。この意味で日光に遮られて健康の悪条件におかれた地方で、かえって健康が保たれるということも、知恵を仂かし、エ夫し、努力するところにもたらされることは当然であろう。
要するに、長生きの国をつくるには、みんなが知恵をもちより、金を出して助け合わなければならない、ということになるわけであって、これが社会保障で、昨年秋、私が出席した世界医師会議(キューバのハバナ市)で、いちばん論議されたのもこの問題だった。
そこでは五十数ヵ国から集った代表たちが、自分の国ではこうやって成功した、こうして失敗したというようなことを話し合った。私はそのときいろいろな国の話をきいたが、後でそれらの国を実際に見て歩いたのである。