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06欧米の赤線実見記
公定相場一三五〇フラン
パリ大通りではみんなが華やかに歩いているが、ある地域では、灯がつくころになると、昼聞は気がつかなかったのが、灯がつくとはっきり「ホテル・水洗いつき」と看板が見える。そんなのが商店街のショウウインドにはさまって軒並みにつづいて、その前には、女の子がずらりと立ち並んでいる。われわれがそばを歩いても、モーションをかけることもなく、じっとだまって立っている。これは引っぱったり、街頭取引は、御法度になっているためか、自由の国では他人の自由意思を阻害するのはよくないことだから、しないのかも知れないが、とにかくパリの零下何度という寒空の下に耐えて人形のように立ちつくしている。お巡りさんが通ってもただ立っているのだから、どうすることもできないらしい。
街によって多少ちがうが、公定相揚があって、(ふつう千三百五十プラン、日本の千三百五十円)これは千フランが代金で、三百フランがホテル代、五十フランがチップという割合だそうだ。この公定はよくまもられていて、人を見て、ぶっかけたりはしないそうだ。だから日本の人も安心してつきあえるわけだ。それはタクシーのように公定がきまっており、それをまもらないと同業者の名折れとなり、ひいては信用にもかかわるというのであろう。
このような女性の立ちならぶ街、あるいはバーや特殊なレストランには、女がたくさんいて、隅っこに座って何くわぬ顔している者、あたりを見まわしている者、男と談笑しながら飲んでいる者、などあってそれとわかるが中南米のよりに仂きかけるということはあまりない。そこは花の都のエレガントなところだろう。
こんなわけで、パリの夜の町は文字どおり″赤線″となり、色の赤い線に結ばれて、結び目にバーがあるという形にも見えるのである。これは今や世界の文化都市の風景になっている。
ロンドンでは、パリとはちょっとちがう。ピカデリー・サーカスやトラファルガー・スケヤーあたりの盛り場では、きれいに着飾った貴婦人らしいのが行ったり来たりしている。ちょっと見ても、家庭婦人と区別つかないが、そこのカフェに入ってしばらくながめていると、同じ女が、何度も行ったり来たりしているのでわかる。たっているのはいない。これは立っていると捕るということがあるのかも知れないが、歩いていれば普通の通行だからこれまたどうにもできないわけだ。これはイギリスとフランスとの考え方のちがいから来でいるのではないかと私は思った。つまり、フランスではなんでも開けっぴろげであるが、イギリスでは、体面とか面子を重んじる国なので、街頭に立っているのは目立ってこまる、と考えればよくわかるのである。